With TOT第4弾は、紙にひそむ可能性を探る福永紙工のプロジェクトの第2弾「紙工視点2022」として、建築家 大野友資さん(DOMINO ARCHITECTS 代表)と企画・制作されたpaper rackのTHINK OF THINGS 別注品「paper rack F4」を発売しました。 発売を記念しTHINK OF THINGSのデザイナー佐々木拓が福永紙工の代表・山田明良さん、大野友資さんと共に3社コラボレーションを振り返りました。
”今回コラボレーションしたもの” 今回のコラボレーション商品「paper rack F4」は、コクヨが古くからオフィス家具や什器などに用いてきたオリジナルカラーのグレー「F4」色を採用しました。紙にはツヤPP加工を施し、なじみのある重厚なスチール製ラックのイメージに近づけることで、paper rackの特徴である軽量性とのギャップを楽める仕様となっています。
“紙の可能性を追求する” 佐々木:今回、TOTのコラボレーションとして紙工視点のpaper rackの別注品をつくっていただきました。そもそも紙工視点で大野さんとのプロジェクトはどんな経緯で始まったんですか? 大野:紙工視点のディレクターをされてる岡崎智弘さんからお声がけいただきました。紙の可能性を探って欲しいという依頼内容だったので、紙という素材自体の可能性を探りたいと思って、最初は紙を燃やしてみたり、香りをつけようとしたりしていました。そしたら結構難易度が高そうで。そもそも福永紙工さんは製紙会社じゃなくて、紙の加工の会社さんだったんですね(笑)。そもそもそんな大前提からごっちゃになっているくらい紙に関しては素人同然で…とにかく、始まりはそういうかたちでした。 山田:紙工視点はデザイナーさんの紙に対する視点はなんだっていうところを探っていく活動なのでざっくりとしたお願いだったと思います。 大野:福永紙工さんと一緒にやりとりやリサーチを進めていく中で、お互いが元々持っている興味やリソースを共有しながら、これからも自分のプロジェクトでも使えるような紙の家具を考えられないか、という流れになりました。試作を重ねて、最終的にスチールラックをモチーフにした、可動棚的な仕組みで棚板の付け外しができる、ペーパークラフト的な要素もあるような紙製の収納ができました。
”卓上に置かれた時に一番ちょうどいいサイズ” 佐々木:最初から、もうこの案でいこうみたいな感じだったんですか? 大野:家具にしようと決めてからはこれが唯一の案でした。誰もが知っているスチールラックという普遍的で工業製品的なイメージをベースにして、それを福永紙工の技術で軽い紙で作ったらどういうものができるんだろう、存在感のそのものが面白くなりそうだと思い、提案しました。 佐々木:最終的なサイズはどうやってこのサイズに決めたんですか? 大野:ただのスチールラックのミニチュアではなかったので、卓上に置かれた時に一番ちょうどいサイズを検討するためにいくつか模型をつくってこのサイズに決めました。 佐々木:第1弾の紙工視点やかみの工作所などこれまでの活動も見させていただいてるんですけど、paper rackは群を抜いて道具っぽいですよね。よりプリントして可愛らしいものを作る方向性もあるけど、紙の加工に対して、さっきの可動棚のアイディアがとても実用的なものだからかなと思います。山田さんは最初に大野さんからアイディアを聞いた時はどんな印象でしたか? 山田:これまでもかみの工作所やテラダモケイなどやってきましたが、紙工視点は一番最近のプロジェクトとして立ち上げたもので、岡崎智弘さんにディレクターとして入っていただいています。大野さんにお声がけしたのも岡崎さんの推薦でした。今までもさまざまな建築家の方と共にお仕事をさせていただいているのですが、その中でも大野さんの活動は特に幅広く、何か一緒にできたら面白いんだろうなと思っていました。paper rackの提案を聞いた時はありきたりのものだけど、ありきたりじゃない、ものが来たと感じました。 大野:新しい存在ではあるんだけど、昔からあったんじゃない?みたいな、そういったものを見つけたかったです。ぱっと見てすぐに新しいってわかるものより、この先もずっと定番になりうるような 新しさをイメージしていました。 佐々木:いい意味で前からあったような感じでしたね。 大野:これまでになかった、誰も知らなかった全く新しいものを作るのではなくて、それも面白いのだけれど、元々あるものの歴史を汲み取ったり、少し曲げたりして面白さを引き出すことに興味があります。建築のプロジェクトでも、設計のとっかかりとしてその建築がどういった歴史や記憶に接続するかということを重要視していますし、既製品もポジティブに使います。今回だったらスチールラックがもっているイメージや歴史に接続させることで、そっちの文脈を引っ張り込んだものを作りたいっていう思いがありました。あとは、福永紙工さんの製品ってよくミュージアムショップで見かける印象があったのですが、家具屋さんとかセレクトショップでも販売されるようなものになったらいいなとか、シーンとしてはデスク周りの小物整理に使われるといいなとか、リビングの中で飾り棚みたいに使われるといいなとか。置かれる空間のイメージは初期から意識していました。
”互いの文脈がちょうどよく、いいバランスで均衡してる状態” 佐々木:紙工視点のプロジェクトを進める上で大事にしていたことや意識していたことってありましたか? 大野: 僕らがこれまでやってきた、自分たちらしさみたいな文脈と、あと紙工視点(福永紙工)のみなさんの文脈の上手い交差点を見つけたいと思いながら進めていました。うちすぎなくてかつそちらすぎないもの、お互いの文脈がちょうどいいバランスで均衡してる状態を目指しました。 佐々木:どちらにもすぎない、両方のらしさが出ている感じがします。 ミュージアムショップじゃなくて、家具屋さんとかセレクトショップで売られるようにしたいっていうイメージを持っていたっていうのが空間的な視点というかマーケット視点でとてもプロダクトよりな視点だなと思いました。空間起点のプロダクトデザインって、プロダクト的に無理をしてるものとかも結構あると思うのですが、大野さんが作るものは両方の視点がはいっている感じがしてすごいなと思ってます。 大野:ありがとうございます。どんなプロジェクトの時もみんなが自分のものだって思えるものにしたいっていう思いがあるし、そこにチームでやる面白さがあるので。 山田:確かに大野さんから俺が、俺が感って全然感じないですね。 大野:あんまりそういうのはないですね。 佐々木:dominoらしいものって、今まで意識したことってないんですか? 大野:特別これというマニフェストみたいなものはないですね。コミュニケーションとかチーム作りみたいなところでは、らしさがあるかもしれません。アウトプットのうちっぽさは自分で表明するのではなくて、おのずと滲み出てしまうものだろうって思っているので、見た人たちにとって都合よく解釈してほしいと思っています。例えば、paper rackと360°BOOKだけ見ている人からすれば我々のことをプロダクト寄りだと思う人もいると思うし、デジタル系といわれることもあったり、やっぱり建築設計事務所だねっていう人もいたり。いろんなくくられ方をするので、今はそれを楽しみつつ、一つ一つのプロジェクトに丁寧に向き合っています。
“今回のコラボレーションの文脈” 佐々木:今回はコクヨが昔から家具を作るときに使われているF4(エフヨン)ていうカラーで別注品を制作いただいたのですが、厳密には昔から使われていたカラーじゃなく、管理されていないいろんなグレーがあって、それをちゃんと管理しようってできてきたカラーシステムの初期で生まれた色がこのF色というグレーかと思います。あとは、よりスチールっぽく、ツヤPP加工をしてもらいました。最初はTOTらしく青にする案もありましたが、大野さんからもアドバイスいただきながら検討を重ね、元からある紙工視点のpaper rackとコクヨとの文脈の、いい塩梅が取れた気がしました。 山田:今までマットしかやってなかったのでツヤありは僕たちも初めてで、独特な雰囲気が出ましたね。重厚感が出てもはや紙とは思えない感じ。 佐々木:紙の質感が消えたからか、よりスチールっぽく見えますね。スチールだと思ったてネットで買ったら紙だったみたいなこともありそうです(笑)。 大野:元のpaper rackは紙を決めるときにもう少し紙の質感があるものも候補にありました。色のバリエーションに関してはオレンジと青の組み合わせが気に入っています。 結構、珍しいと思われがちですが、amazonの倉庫なんかでも使われていて世界的には定番色だったりします。あとはちょっと具合の悪い緑色とか、小豆色とか、スチールラックではよく見るような色をリサーチして最終的に三種類に決まりました。 佐々木:そうなんですね。世の中にある実物のスチールラックの色に変えていくだけでたくさんバリエーションができそうですね。 大野:たくさんありますね。とはいえ定番の商品として存在がちゃんと定着するようにしたかったので、バリエーションは結構絞りました。最初はいろんな紙質で作るとか、加工を施したりしながらカスタマイズできることを売りにしようみたいな話もありました。でもその拡張性みたいなところは、コラボレーションしたい相手がきっと食いついてくれると思ったので、こっち側の視点としては、できるだけストイックな求心力のあるものにしたいと考えました。 佐々木:そこにまんまとこう、餌にかかった感じですね(笑)。企画する人からしたら、バリエーションとか拡張性をやりたくなっちゃうというか、それを売りにしたくなっちゃうことって結構あるなと。 大野:バランスだと思うんですよね。コクヨにもたくさんあると思うけれど、「この商品と言えばこの形」みたいな安定感が、定番品ってやっぱあるじゃないですか、その定番にまずはしたかったっていうのがあるんです。
”緩やかなつながりで広がるプロジェクト展開” 佐々木:福永紙工さんは、かみの工作所や紙工視点など、いろんなプロジェクトやブランドを出されていていますよね。それがすごく珍しいような気がして。毛色も違う複数のブランドの展開ってどういうふうに考えているんですか? 山田:最初は、かみの工作所をはじめたんですが、やっていくうちにいろんな人とお会いして、 その時々で関わってくれた方、例えばアーティストの鈴木康広さんも、最初は鈴木さんの作品の製作の依頼をいただいてパラパラ漫画を作りました。その後もミュージアムグッズを作ったり、個展のタイミングで作品製作のお手伝いさせていただいたり、そんな感じで長く緩やかに関わらせていただいていたので、一緒になにかやらないかっていう形で始まりました。ちょっとずつそういうつながりが増えていって気づけばこんなになってしまって。時間的には、もう17年ぐらいやっていて紙工視点も3年ぐらいですね。 佐々木:緩やかなつながりっていいですね。紙工視点の始まりは先ほどおっしゃっていた岡崎さんとの出会いだと思うのですが、具体的にはどういう出会いでしたか? 山田:岡崎さんとはグラフィックデザインであったり、岡崎さん自身の個展や展示やお仕事の際にお手伝いをさせてもらったりと、以前から何かとお仕事でご一緒させてもらっていて、紙工視点を始めるときに、岡崎さんには参加デザイナーというよりもディレクターとして入ってもらって岡崎さんの感覚で面白いと思うものをやっていこうみたいな形になりました。 佐々木:人選が面白いですよね。もちろん幅がありながら、それだけじゃなくて個性もあるなと。 山田:僕らも製造側なのでそこまで詳しくわからない部分を岡崎さんが進めて導いて下さってる感じがありますね。 大野:佐々木さんだったら何作りますか?佐々木さんが頼まれたらどういう文脈から発想するんだろうって気になります。 佐々木:結構僕、紙製品をたくさんデザインしているので、テーマが広いと逆に難しいなと思っちゃいます。何かお題がないと(笑)。 大野:そうですよね。そうなると福永さんの得意なことが何かとかっていうこととか、また知りたくなりますね。
佐々木:最後に、紙工視点やpaper rackの今後どういう展開にしていきたいか、目指す姿みたいなのがあったら聞きたいです。 山田:コロナも開けてきてようやくほっとしてきたっていうのもあるので、今年は頑張って色々と元通りに戻して、来年ぐらいにゆっくり考えていこうかなと思っています。色々やっていますがそんなに次々とやっていこうという感じではないので。今回はまさに佐々木さんが声をかけてくれたみたいなこういう展開っていうのは、僕らは製造会社でもあるのですごくありがたいし理想的な展開でした。 大野:コラボレーションの話がすぐに来なくて、逆によかったなと思っています。paper rackを発売したのも1年前ぐらいだったのでぱっぱってやらないっていうか、そのくらいのペースで物事が進んでいってるのは性に合ってるし、いいなと。あと、個人的にはpaper rackを拡大してみたいです。コクヨさんと一緒に拡大して、「スチールラック」っていう名前で出したいです。 佐々木:面白いですね(笑)。これが売り切れたら、次はでかいやつ作りましょうか? そしたらいろんなプロジェクトで使えますね。軽いし。 大野:あ、でも鉄で作るんです。鉄で作ってスチールラックにする。 佐々木:え、でもそれって普通のスチールラックになりません? 大野:そうです(笑)。 山田:すごく大野さんっぽいですね。でもなんかそういう風に、活動が膨らんでいくっていうかね、ちょっとずつ広がっていくっていうのが、 すごい幸せなことだなと思ってます。