14

L PACK.

Text: Yuki Isobe / Photo: TOT Staff、田上浩一

2024.5.3

THINK OF THINGSでは、4月25日(木)より、アート・デザイン・建築・民藝などの思考や技術を横断しながら、最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた“コーヒーのある風景”をきっかけに、まちの要素の一部となることを目指す「L PACK.(エルパック)」によるポップアップイベント「Imagination Practice」を開催しています。 今回のポップアップに併せて、L PACK.の中嶋哲矢さんにこれまでの活動や今回の企画についてお聞きしました。

―「L PACK.」のことや、これまでの活動について教えてください。 僕と小田桐は静岡文化芸術大学の同級生で、L PACK.は大学4年生の後期に結成したユニットです。同じ頃、大学の先輩だった「Nadegata Instant Party」の野田智子さんに誘われて、東京にイベントの手伝いとコーヒーを淹れに行ったときに、このユニット名を付けました。 僕らは空間造形学科の4期生として建築を学んでいたんですが、課題で架空の家族の家を設計したりすることに少し違和感があって、もっと現場というかリアルなことの方が面白いと感じていたんですね。『新建築』などを見ていると、みかんぐみやアトリエ・ワンが注目されていて、ただ建築物を設計するだけではない世界もあるんじゃないかと思っていたんです。 そんなとき、大学横を流れる川の向こうにあったレストランの面白いご夫婦に出会って…。そこは古い倉庫を改装した天井の高いレストランで、ギャラリーのようなスペースに古いインテリアなども置いてあって、当時の僕らにとってすごく刺激的で魅力的で、格好良いと思える場所でした。 お二人は僕らのことを面白がってくれて、ランチ営業の後に一緒の席でコーヒーを飲みながら、インテリアやデザイン、アートの話などをしてくれました。そこでの話が楽しくて、その空間や時間も大好きで小田桐と2人で通うようになっていましたね。 卒業制作では、実際に人が集まれる「場」を僕らの「建築」として提案したいと思い、大学のロビーに友人たちから集めた家具やコーヒーカップを並べて、僕らが淹れたコーヒーを飲むことができる空間を2人で提案しました。 そこからコーヒーをきっかけにした風景をつくるということを続けてきて、横浜・黄金町の廃旅館をまちのシンボルにコンバージョンする「竜宮美術旅館」や、「あいちトリエンナーレ2013」のビジターによるビジターのためのスペース「VISITOR CENTER AND STAND CAFE」などのプロジェクトを手掛けたり、直近では「さいたま国際芸術祭2023」で『定吉と金兵衛』という作品を発表したりしています。僕は普段、池上でやっている日用品店「DAILY SUPPLY SSS」にいて、日用品を取り扱いながら、コーヒーを焙煎して提供しています。

― 様々な領域で活躍されていますが、L PACK.の活動の中でお二人が大切にしていることを教えてください。 日々、アートやデザイン、建築、民藝などの領域を横断しながらいろいろな活動をしていますが、一部の業界の中だけで面白がられたり、その領域だけで認識されるというのは、L PACK.としては違うかなと思っていて。いつも新しいことに挑戦してきて、これまでに関わってきた領域のキーワードがどんどん足されていっているイメージですね。 「コーヒーのある風景」という言葉はずっと使っています。プロジェクトは期間限定のものが多くて、ずっと変わらずそこにあるものではなく、記憶の中で蘇る「風景」のようなイメージなんですよね。風景の中には、場所があって、そこには人がいて…というようなイメージもあるのかもしれません。一番最初に大きな場所としてやっていたのが黄金町のプロジェクトですが、当時学生だった人が学芸員になっていて声を掛けてくれたりすることもあって、そんなふうに記憶がつながっていくことも面白いなと思っています。 作品のことでいうと、L PACK.の作品はかたちがあってないようなものが多いんですが、最近は陶芸家のように技術を持った人たちと一緒に作品作りをすることもあって、お互い「こんなことはじめてやりました!」となる感じが楽しいです。すべて指示を出して決まったものを作ってもらうより、曖昧なプランを伝えて相手が考える余地を残して作ってもらうことの方が多いです。その方が互いに思いもよらなかったものができあがることが多くて良いんですよね。 L PACK.は、声を掛けていただいたことに対してアクションする方が得意ではあるんですが、決まったことだけをやるっていうのも苦手で…。みんなが想像できないことをする方が面白いし、お客さんも僕らも初めて見るっていう感覚を味わいたくて、いつも違う感じを見たいっていうのがありますね。 展示室以外のこと、まちのことは僕らも商いとしてやっているという意識です。その街でなにかやるときには、その場所で商売をする人たちと同等のリスクを取って、同等な立場で一緒にやるべきだと思っていて、毎回その地域にどっぷりと浸かっていますね。

― 今回の企画や展示について教えてください。 「ラッキーロープ」は埼玉県でイベントに出展するときに、「コーヒーやお菓子を出すだけではつまらないから、お祭りの屋台にあるような紐くじをやってみよう!」と生まれた企画です。 僕らはプロジェクトが始まるとき、初めて行くその街で海や山を見に行くことが多いんですが、今回のラッキーロープの景品は、そこで僕らが見つけてきたものを集めた「found object(ファウンドオブジェ)」というリサーチオブジェクトを大放出している感じです。物を見た瞬間に千本ノック的にタイトルをつけているので、その辺を面白がってもらえると良いかなと思います。 CASEの方に並べているのは、これまでに作ったものたちです。紫外線によって光る「ウラングラス」は、日本のバーの発祥の地でもある横浜の芸術祭で、夜景に一番近いバーを作ろうというコンセプトで3日間だけオープンした仮設のバー『BAR 92 U』で使用したグラスです。 「陶片」は、益子の「土祭2021」で発表したインスタレーション作品『陶芸家とすえの森』の陶片をマルチプル*として展示・販売しているものです。同じ作品のイベントで使用した「モーニングプレート」には、森で採取した縄や枝などを土に押し付けて模様を付けています。細長いくぼみがソーセージがのりそうなかたちに見えてきたり…、好きな場所に好きなものをのせてみてください。 「珈琲の湯(発泡千家)/ way of coffee (carbonated Senke)」は、「さいたま国際芸術祭2023」の作品『定吉と金兵衛』の一部として作られた、コーヒーと数種のスパイスや果実を配合したオリジナルコーヒー炭酸飲料です。作品は落語の“茶の湯”を題材としたインスタレーションで、“知ったかぶり”や“勘違い”によっておかしな茶席が出来上がるというもの。パッケージは、“勘(缶)違い”というキーワードから、日本語の“かん(閑・間・寒・甘など)”を英約した10種類があります。 見たことないものしかないと思うので、気になるものがあったら、ぜひTOTのスタッフさんに聞いてみてくださいね。ラッキーロープも体験しに、ぜひTHINK OF THINGSにお越しください。 *マルチプル…作家の指示のもとにメーカーによって量産された芸術作品のことを示し、この作品では作家=L PACK. 、メーカー=AGAIN-STという関係の基に陶片が作られている。

POPUP「Imagination Practice by L PACK.」 期間:2024年4月25日(木)〜5月14日(火) 場所:THINK OF THINGS 1F CASE L PACK. L PACK.は、アート・デザイン・建築・民藝などの思考や技術を横断しながら、最小限の道具と現地の素材を臨機応変に組み合わせた“コーヒーのある風景”をきっかけに、まちの要素の一部となることを目指す、小田桐奨と中嶋哲矢によるユニット。 主な活動に、廃旅館をまちのシンボルにコンバージョンする「竜宮美術旅館」(横浜/2010-2012)やビジターによるビジターのためのスペース「VISITOR CENTER AND STAND CAFE」(名古屋/2013)などのプロジェクト、『The story was handed down from father to son. ―親から子へと伝えられた話―』(岐阜県美術館/2023)、『定吉と金兵衛』(さいたま国際芸術祭/2023)などの美術館や芸術祭での作品発表があります。2017年より日用品店「DAILY SUPPLY SSS」(横浜・東京)も営む。※現在の店舗は東京都大田区池上 Website:lpack.jp Instagram:instagram.com/lpackn

CASE Q&A

TOTのCASEで開催されるポップアップショップやイベントの参加ブランド・アーティストをより深く掘り下げる一問一答インタビュー。ものづくりのコンセプトやその背景、想いを探り、気付きを得られるようなインタビューをお届けします。