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sheepのSOY CANDLE

Text: Go Hoshi / Photo: Ayano Kizawa

2022.12.21

With TOT第2弾は、名古屋に工房を構え、手づくりで天然素材のキャンドルをつくるsheep(シープ)さんとコラボレーションさせていただきました。SHEEP DESIGN Inc.として、キャンドル製作だけでなく、デザインの仕事やセレクトショップcont(コント)も展開されています。今回は、THINK OF THINGSデザイナーの佐々木拓がcontに伺い、代表でデザイナーの山川立真さんと、キャンドルの企画を担当する桐田いずみさんと共に、両者のコラボレーションを振り返りました。

"今回つくったもの" 体によいものづくりを志し、天然由来の大豆油のみでつくられるソイワックスを原料としているsheepのキャンドル。THINK OF THINGSとのコラボラインは、アクティベート(初期化)とリブート(再起動)をコンセプトにオリジナルの香りが調合されています。キャンドルの火を灯す機能を、パソコンの電源をONにするアクションにたとえ、働く・学ぶシーンでギアを入れてくれるような、楽しいキャンドルに仕上がりました。

香りも機能を持つ道具 佐々木(TOT):sheepさんとはTOTのクリスマスマーケットに出店いただいたのが最初のご縁でしたね。キャンドルのような暮らしの中で使われるものを取り扱ったり、つくりたい気持ちは以前からあって、マーケットもそういった中での取り組みでした。TOTはコクヨのお店なので、もちろん文房具や家具が起点ではありますが、TOTではもう少し領域を暮らし全体に広げていきたい。文房具ももっと生活の道具としてとらえていきたいという思いはずっとありました。 山川(sheep):今回お声がけいただいて、最初は文房具のお店でキャンドル?と意外な気持ちでしたね。 佐々木:そうだと思います。TOTのリニューアルに際し、新しいコラボラインのシリーズをスタートさせましたが、ぜひキャンドルはつくってみたかったんです。ただ正直なところどうお願いしたらよいかわからなくて。コクヨらしい、TOTらしい、キャンドルってなんだろうと。なので、最初のご相談はものすごく漠然としていたと思います。 山川:TOTは仕事や学びの道具をつくっているので、そういったことにまつわるキャンドルにできないか、というお話でしたよね。普段機能にこだわったものづくりをされているともお聞きして、そのときに僕たちのキャンドルもちゃんと効能をうたっているなと思いました。天然の素材にこだわって、それぞれの香りの特徴によってどういった作用があるかを考えています。 佐々木:そのお話を聞いたときに、あ、香りも機能を持つ道具なんだって思えたんです。僕はプロダクトのデザインが専門ですが、キャンドルというと香りの要素も強く、どうしても普段のデザインとは少し違う気がして、取っ掛かりを見つけられずにいました。それが道具ととらえられた瞬間に、一気にアイデアが広がって。

"ちゃんと使われるものへ" 山川:初回の打ち合わせが盛り上がりましたよね。仕事のシーンを想像したときに、毎日の始まりはパソコンの電源を入れるところからスタートする。そのアクションと一緒に火を灯すようなキャンドルがあっても面白いんじゃないかと。 佐々木:そこからパソコンの用語を調べて、Activate(初期化)とReboot(再起動)という言葉にたどりつきました。キャンドルって優しく繊細なイメージがありますが、もう少し仕事の気持ちを上げるようなものにしたいと、一気にイメージが固まりましたね。 山川:今回のコラボレーション、実は僕たちが持つ課題感ともつながったんです。キャンドルってよくインテリアショップに置かれているじゃないですか。飾られるだけで、結局使われずに埃をかぶっていることはよくあります。でも本来は消耗品なんですよね。食べ物と一緒です。ただ賞味期限がなく捨てなくてよいので、ずっと置かれっぱなしになってしまう。キャンドルをちゃんと使うものとして発信していきたいとは常々思っていました。 佐々木:ちゃんと使われたいという目指す場所はきっと同じですが、TOTのアプローチは逆なのが面白いですね。文房具はまさに消耗品で、日々使われるのはいいですが、適当に扱われてしまうことが多い。もっと愛着を持ってもらいたくて、なんなら飾って愛でてほしいです(笑)。どちらかと言えばインテリア化を目指しているところがあります。 山川:Roundabout(東京・代々木上原のセレクトショップ)の小林和人さんの、「ものは機能と作用に分けられる」という言葉がありますが、この「機能」と「作用」のバランスなのかもしれません。文房具とか日用品は機能の追求に偏っていて、作用をおろそかにする傾向がある。見た目は好きじゃないけど、便利だから買うってよくありますよね。僕たちのキャンドルの場合は、もっとガンガン使ってもらいたい。うまく使えたとか、失敗したとか、体験を伴うことで得られるものを伝えていけたらいいなと思っています。

"お互いが考えるらしさ" 佐々木:今回、テーマに合わせてオリジナルの香りを調合していただきましたが、きっとActivate、Rebootと言われても、どんな香りにするか考えるの大変でしたよね。 桐田(sheep):大変ってことは全然なくて、楽しく提案させていただきました。ただ言葉だけでなく、何かイメージに置き換える必要があると思って、以前TOTによくお客さんとして遊びにいっていたので、お店の空間をイメージさせてもらいました。 佐々木:そうだったんですか!それはうれしいですね。 桐田:例えばActivateは、TOTのカフェで作業や打ち合わせをする人をイメージして、ガッと気持ちを入れて頑張る感じ。香りはさっぱりしたフレーバーをピックアップしました。Rebootは奥の中庭で気分転換するように、少しウッディーな香りに。色々と試行錯誤しながら、Activateだけで16種類の香りを試しました。 佐々木:僕たちに送っていただいたのは、その中から厳選されたものだったんですね。香りにメモがついていて、トップ(最初にくる香り)はライム、ミドル(後からくる香り)はジンジャーとか、それを頭に置きながら、どれがいいだろうと悩むのは幸せな時間でした。 桐田:実はあのメモもTOTを参考にさせてもらっています。TOTで珈琲豆を買うと、酸味や重量感が数値化されたフレーバーメモのようなものをいただけて、キャンドルの香りもそういうものがあったらわかりやすいなと思ったんです。 佐々木:それは初耳です!僕たちもパッケージデザインを進める際に、せっかくのコラボなので普段のsheepさんとは少し違う感じにしたい、でもsheepさんらしさも残るように、ちょうど良いバランスを検討していきました。エナジードリンクのような元気のある方向性で蛍光色を使ったり、円形につながったACTIVATEとREBOOTのロゴは、ガスコンロで着火していくイメージです。ACTの方は優しい風合いのクラフト紙に印刷していますが、そこが僕たちなりにsheepさんらしさを取り入れてバランスを取った部分です。

"心が動いたら買う" 佐々木:山川さんはキャンドル製作だけでなく、ショップも運営されていますが、 お店でセレクトする商品と自身の生活の中での買い物の、基準や違いはありますか? 山川:ショップのセレクトも僕がしているので当然被ってはくるのですが、お店の方はよりコンセプトに沿って選ぶようにしていて、自分用となるともっと直感的で、心が動いたら結構買うようにしています(笑)。知っていることと、持っていることって全く違うと思っているんです。僕は「インストールする」という言い方をしますが、知っているだけでは、そのモノや作品との距離は永遠に縮まらない。自分の暮らしに本当に合うのか、毎日の生活の中でいつもこの辺にあるな、とかそういう体に入っていく感覚がすごく大事だと思います。 佐々木:なるほど。僕はイームズが好きで、彼のオフィスは世界中から集めてきたさまざまなモノで溢れていたそうです。価格の高いものだけでなく、知らない人から見たらガラクタのように映るものまで、優劣なく同じように飾られていました。当時アート作品の収集家はいたと思いますが、イームズのようなモノの収集の仕方は珍しかったでしょう。そうした、生活自体が自然と情報をインプットする機会になることには憧れます。ただ僕の場合部屋が狭いので、そんなにたくさんのモノは置けません(笑)。なので、自分のお店というアウトプットの場所があるのは、とてもうらやましいです。 山川:自分でもいい仕事についたなと思います(笑)。新しいものをインストールしていくと、お店だけでなくデザインの仕事でも、アウトプットできる場所がある。自分で楽しむだけだとちょっともったいないですが、人に伝えたり、仕事に役に立つ機会があるので、気兼ねなく仕入れられる、というのはありますね。 佐々木:桐田さんもたしかクリップの収集癖がありますよね。インスタで拝見しましたが、かなりマニアックな印象を受けました(笑)。 桐田:昔からクリップが好きで、最近は道路に落ちているクリップを撮影して、インスタにアップしています。地域性とか、そこに人がいた痕跡を感じられるのにハマってしまって。役には立たないですが(笑)。 山川:それこそ「作用」ですよね。なんの役に立つかもわからないけど、つい集めてしまう、撮ってしまう。本当に好きなんだと思います。衝動性がある感じが、僕の「心が動いたら買う」と近いですね。 佐々木:こういう好きを突き詰める感覚は大事にしたいですよね。デザインでも惹かれるものってどこか狂気性があります。好きなだけじゃなく、嫌いになるような要素もあるんですよね。でも興味を持ってしまう。スマートで非の打ち所がないだけだと面白くないですから。

"「矛盾」の「対比」を提案する場所" 佐々木:キャンドルはsheep、ショップはcontという名前の由来はなんですか? 山川:僕たちは天然素材を使うことで「食事中に安心して使えるキャンドル」というコンセプトを掲げています。一方で、石油から取れるパラフィンワックスを主原料とするキャンドルは体に良くない影響があると言われています。よく見ると注意書きで「換気してください」と表示されています。僕たちのキャンドルは換気などしなくても、普通に人間が呼吸をする中で使えるものにしたいという思いがありました。人が一番無意識に呼吸するのは睡眠中なので、はじめはsleep(スリープ)と名付けようとしましたが、すでに使われていて。それで、寝るときに羊が一匹、羊が二匹、と数えるところから引用して、sheepにしました。一般名称なので、検索で全然上にきてくれなくて困っていますが(笑)。 佐々木:羊を抜くことが目標ですね(笑)。contはどういう意味なんですか? 山川:contはちょっと小難しい話になりますが、Contadiction(矛盾)とContrast(対比)の最初の4文字から取っています。今の世の中、モノを買っているようで、情報を買っていることがほとんどだと思います。ネットでおすすめを検索するのもそうですし、例えばスーパーで洗剤を買うときも、なんとなく有名な会社が安心かなと思って選ぶのが染みついています。じゃあ有名な会社が本当に体にいいものをつくっているかというと、そういうことばかりではないんですよね。逆に僕はよく地方に行くんですが、広く知られてはいないけど、本当にいいものをつくっている人たちがいます。そういった「矛盾」と「対比」するものを提案していきたいという思いで、contと名付けました。 佐々木:たしかにショップにPOPが一切なくて、情報ではなくモノと向き合ってもらおうとされている。ショップにキャンドルの工房が併設されていて、手づくりしている様子が見えるのが楽しいし、何よりとてもいい香りがします。まさに体験を提案されているんだなと実感しました。 山川:はい。美術館に行っても作品よりもまずキャプションを見てしまうじゃないですか。モノと出会う瞬間を情報から入ってほしくなくて、もっとモノを感じて買ってほしいという思いです。便利だから、安いから、誰かが使っているから買うということも当然あるとは思いますが、それを乗り越えた体験をする場所にしたい。情報はないですが、香りとか音とか味とか、いわゆる体験しないとわからないものを提案していきたいと思っています。

      

With TOT

ものに対する思想やプロセスに共感するブランドとのコラボレーションによるプロダクトライン。知恵と工夫の重ね合い、ものごとについてより深く学び、考えるきっかけとなるような別注品を製作していきます。