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sugataのCONVINIENCE ID CASE

text: Hinano Ikeda / photo: Leo Arimoto

2023.10.5

With TOT 第3弾は普通を作る工夫の重なりをコンセプトに染谷商店が作る革製品ブランド「sugata」とコラボレーション。今回はTHINK OF THINGSの佐々木拓・小林菜々恵が東京台東区にある染谷商店の事務所に伺い、代表でデザイナーの染谷 昌宏さんと今回のコラボレーションを振り返りました。

"今回作ったもの" sugataの”コンビニエンスウォレット”シリーズの使いやすさにこだわり、素材を活かして一切の縫製をなくした無駄のない設計に、馴染みのあるIDカードホルダーの上部の穴が融合し、オフィスで昔から使われている社員証用IDカードホルダーが暮らしでも使いやすいケースに進化しました。他の汎用樹脂に比べると石油資源への依存度も低く環境への負担が小さいPVCを使用し、透明感を活かした軽やかな見た目になっています。名刺やクレジットカード、社員証などのカードや小銭を入れることができるポケットが2つついたCONVENIENCE ID CASE (CARD)
、3つのキー金具と1つのカードポケットがついたCONVENIENCE ID CASE (KEY)の2種類の仕様です。

佐々木(TOT):染谷さんに最初にお会いしたのは、4年ほど前の展示会でしたよね? 染谷(sugata):展示会に佐々木さんがいらしていて、ぜひ新しい商品を見ていただけたらとお声掛けしたのが最初だったと思います。ご挨拶はその時が初めてでしたが、実はその数年前に友人の勧めでTHINK OF THINGSに伺ったり、当時開催されていたリレオストアさんの革を折るワークショップに参加したりもしていました。そこで佐々木さんがお話しされている様子を拝見したのが、僕が佐々木さんを知るきっかけでした。 佐々木:まさかワークショップにいらっしゃって頂いていたとは驚きです。展示会でご挨拶させて頂いてから、何度目かの展示会で発表されていたコンビニエンスウォレットがとても印象的でした。革のブランドかと思っていたらPVC素材が使われている商品で、構造もシンプルなのにとても機能的で。見た時から何かコラボレーションできないか考えていました。今回のスタートはとてもシンプルで、コクヨが昔から作っている商品のひとつであるIDカードホルダーとコンビニエンスウォレットを組み合わせられないかということでした。このアイデアはTOTで一緒に企画・デザインを行っている小林さんと新しい企画を考えている際に、ものを最小限しか持たない主義の小林さんとミニマルな携帯用式についてアイディア出しする中で出てきた案でした。IDカードケースなのに、お札や小銭も入れられたらそれだけで十分じゃないかと。 小林(TOT):私自身がすぐ物を失くしてしまうので、あまり物を持ちたくなくて(笑)必要なものだけを身体から離さないように持ち歩くっていう生活スタイルをしています。ずっと前からこれだけあれば持ち物を失くさず安心できるようなミニマルなものを作りたいと考えていました。

“必要最小限、すべてが収まるIDカードケース” 染谷:IDカードホルダーって誰もが一度は見たことがある存在だからこそ、どうやって作られたのかを疑問に思ったり、なんでこんな形をしているんだろうと考えたりすることがないけれど、長年使われていたのには理由があると思うので、そんな広く多くの人に親しまれているアイテムで一緒にコラボレーションをすることができて嬉しかったです。 佐々木:僕はずっと前からこのIDカードホルダーの穴がもっとシンプルに穴が空いてるだけでいいのにとか、なんでこんな形してるんだろうって疑問に思っていた時期がありました。でも、コラボを通してどうして穴が空いてあるのか考えることが面白かったり、この形状の穴に愛着が湧いてきたりして、外見が変わることで元のIDカードホルダーとは違った見え方がしてくる感じがしました。今回の構造やデザインはすべて染谷さんにお任せだったのですが、形状を考えられている中で意識していたことなどはありますか? 染谷:打ち合わせでお二人の話を聞いて、汎用性を高く持つことと使い方を限定しない構造にこだわって作りました。上部の穴は好きなストラップの紐を通してもいいし、紐を付けずに持ち手みたいに使ってもいいとか。それから、カードを入れるポケットのサイズは名刺やクレジットカード、微妙に大きい診察券とかスタンプカードも入るようなサイズにしています。 佐々木:最低限の財布としての機能も担保しながら、名刺ケースとして使ってもおかしくないような、シンプルな構造になっているのがいいですよね。

“用途にかなった素材" 小林:私は普段使っているカードケースに、身分証やクレジットカードの他、折りたたんだお札や、時には頭痛薬を入れておいたりしています。なんでも入れられる余白があると使い方を自分の生活に合わせることができますね。今回のプロダクトはPVC素材で、水濡れの心配もなく、軽いので持っていることすらを感じさせないところもいいなと思います。sugataは革のイメージがあったのですが、PVC素材はどんな経緯で使い始めたんですか? 染谷:元々、革は自分で試行錯誤がしやすいという理由で選んだ材料なんです。そのうえで、素材の特徴を考えていた時に、靴に革靴とスニーカーがあるように、財布にもスニーカー的存在があってもいいんじゃないかと思って。近年、軽い財布が求められていたこともあり、PVC素材なら可能なんじゃないかなと思って始めたシリーズです。 佐々木:革の財布と革靴とかって重厚感やラグジュアリーな印象がありますね。PVCは革より日常的で手に取りやすい素材なところがいいですね。 染谷:僕の中のいい素材って「用途にかなった素材」だと思っていて、革以外にも可能性がある素材って世の中にたくさんあると思っています。PVC素材は裏表関係なく使えるし、溶かしてくっつけることができたり、薄くても強度を保てるところだったり、革とはまた違ったPVC素材ならではの良さがあると思っています。 佐々木:革小物やPVC素材を使用したコンビニエンスウォレットシリーズ以外にも、ハンカチを作られていたり、さまざまな素材を使ってその時々で素材の性質を無理なく、合理的に活用してもの作りをされている感じがします。そもそもsugataの始まりや、義肢装具の仕事からデザイナーへの転身ってどんな経緯があったんでしょうか?

"新しい使い方や視点作り” 染谷:昔から身の回りの物事について考えることが好きだったので、どうしたら「考えること」を仕事にしていけるのかを模索した結果、義肢装具士からデザイナーへ転職するに至りました。新しいものよりも、昔からよく使われている身近なものに魅力を感じていて、THINK OF THINGSさんは新しいものを作りながらも新しいものを作っていないと言うか、ものの見る視点を変えて、ものと人の距離を縮める活動をされていると感じていました。日々、僕自身が「身の回りのことを考える」、つまり「THINK OF THINGS」をしていたので、今回のコラボレーションの話をいただいた時はとても嬉しかったです。 佐々木:ありがとうございます。すごく近いところがありますが、僕たちの活動はコクヨの古き良きことや技術を現代だったらこんな使い方ができるんじゃないかなみたいな「視点を変える提案」を行うことが多いのですが、sugataの商品は構造をよりシンプルすることによって「使い方を変えて新しさを生み出す」みたいなTOTとは異なるもの作りをされていて新鮮味を感じます。 染谷:そうですね。新しいことをしているという気持ちはあまりなくて、昔からある知恵を転用している感じです。使い手が想像を巡らせたくなるような物を作りたいと思っていて、例えば、組み立てる前の型がL字の型紙からできている商品があります。革から型を切り抜く時にテトリスみたいに組み合って無駄なく取れるようにしています。自分で考案したというよりは元々ある、敷き詰められるパターンのルールを転用しているイメージです。 小林:私たちも、工業用途で開発された素材や構造を応用して日用品をつくったり、医療現場などで使われる専門性の高い家具をお店の什器に使用したりしています。お話しさせていただく中で、分野や見せ方は違いますが根底部分の考え方に近いものを感じました。 染谷:表層を整えるみたいなことがデザインと捉えられがちだと思うのですが、僕は「形と用途」だったり、「素材と製造工程」だったりが、どのように結び合っているのかを考えることが好きだったので、それがデザイナーの仕事へ繋がっているように感じています。誰々がやったデザイン製品というよりも、もの作りと機能が直結していて、ホームセンターで並んでいるようなものが好きです。

佐々木:今後の目指す姿みたいなのはありますか? 染谷:詰める高さが低くてもいいから、一つ一つをぴちっと重ねていきたいなと思っています。 佐々木:たしかにたくさん作ろうとするとどこかで無理が生じてくることありますね。TOTはコクヨの直営店・ブランドでチームで動いてるのですが、sugataはブランドだけどもう少し職人的で染谷さんお一人でされていると思うのですが、仕事の在り方で大事にしていることはありますか? 染谷:会社としては僕一人ですが、僕は考え方を担当しているという認識で、それ以外の作ることは作るプロの方にお願いをして、売ることは売るプロの方にお任せをしています。製造工程だったり、素材だったり、そうした一つ一つの部分を大事にしていきたいですね。出来上がるものと、より丁寧に向き合うためには、今のように小さい規模で動くことが自分には合っているのかなと思っています。

With TOT

ものに対する思想やプロセスに共感するブランドとのコラボレーションによるプロダクトライン。知恵と工夫の重ね合い、ものごとについてより深く学び、考えるきっかけとなるような別注品を製作していきます。