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TEMBEAのCASHMERE GUNTE

Text: Go Hoshi / Photo: Ayano Kizawa

2022.12.7

第1弾のコラボレーションは、THINK OF THINGSのご近所にオフィスやショップを構える、帆布のトートバッグでおなじみのTEMBEA(テンベア)。代表でデザイナーの早崎篤史さんとTHINK OF THINGSデザイナーの佐々木拓が、今回のコラボレーションを振り返りました。

“今回つくったもの” TEMBEAの冬の定番品のGUNTE。道具としてのバッグを提案するTEMBEAらしく、手袋ではなく軍手の工場でつくられています。今回は、カシミアのGUNTEに、より軍手らしさを強調するドット柄を、TOTカラーのブルーでプリントしました(滑り止めの機能はありません)。カシミアなのに、一見無骨で実用的な道具のように見えるところや、滑り止めをイメージしたドット柄がファッションとしてかわいく見えてくる、ギャップが楽しい商品になりました。

佐々木(TOT):実はコラボは初めてではないんですよね。TOTより前にTHE CAMPUS SHOP(コクヨの品川オフィス内のショップ)でBOOK TOTEとGUNSOKUをつくっていただきました。そのときも最初はGUNTEでご相談しましたが、スケジュールが間に合わず断念。その心残りがあって、今回TOTとして改めてお声がけさせていただきました。 早崎(TEMBEA):コラボのお話をいただいたときは、気持ちが上がりました。ファッション以外の業界から声がかかることってほとんどないんですよ。しかもそれが文具メーカーのコクヨさん。何ができるんだろうと思って。 佐々木:うれしいです。今回TOTをリニューアルすることになり、商品セレクトの考え方を見直しました。ただセレクトするよりも、ものづくりのアプローチに共感できるところと組んで、商品だけでなく共感したことも一緒に伝えていくようなことができたらいいなと思ったんです。TEMBEAさんのGUNTEは、過去からある生産技術を活かして、今の暮らしになじむアイテムへと昇華させている。TOTも大事にしているアプローチなので、一緒にものづくりができたらいいなと思っていました。

“ファッションとプロダクトの中間” 早崎:ただ今回もやはりスケジュールが厳しくて(笑)。最初のオーダー通りオリジナルカラーの軍手がつくれれば良かったですが、実際にはすでにTEMBEAにあるラインナップの上に、オリジナルの柄をプリントしていただくかたちになりました。 佐々木:でも今はそれも良かったかなと思っています。ある意味グラフィックが乗っただけで、大きな化学反応にはなっていないかもしれませんが、それよりも両者のものづくりが伝わるようなものになることが大事だなと思いました。 早崎:業務用の軍手の滑り止めを模したデザイン、面白いですよね。しかも実際には滑り止め機能はなくて、ただのプリントなのもシャレがきいている。カシミアにプリントするのは初めてだったので、僕たちにとっても新鮮でした。 佐々木:ゴムの滑り止めを好きな形で表現する選択肢もありました。でも滑り止めの機能はあえて残さず、ただのプリントに変換して、道具とファッションの中間のような商品になるのがTEMBEAさんらしいと思ったんです。 早崎:そこに気づいてもらえているのがうれしかったですね。自分たちとしても、ファッションブランドではありますが、道具やプロダクトをつくっているような意識も強くて、それぞれの分野に片足ずつ突っ込んでいる感覚です。 佐々木:その感覚はどういうところからきているんでしょう? 早崎:時代的なものもあると思います。自分が10代、20代だったころ、ファッションにももっと勢いがある時代で、軍モノとかワークウェア、アウトドアウェアのように、元々別の用途のものをファッションに取り入れることが流行ったんです。その頃から用途を変換するというアプローチが好きで。

“自分が使いたいものをつくる” 佐々木:TEMBEAさんの代名詞のバゲットトートも、用途が限定されているようで、実は使い方は大らかで自由で、ユーザーに委ねている。そのバランスが面白いと思いました。発想の順番としては、用途を先に決めるんですか? 早崎:用途から入るときもあれば、後付けの場合もあります。実はバゲットトートは、後者のパターンです。 佐々木:そうなんですか。じゃあどういったきっかけで? 早崎:ただただ、自分が使いたいバッグをつくりました。TEMBEAを始める前はアパレルの会社にいましたが、ある時洋服のスワッチを取り寄せた中に、このキャンバス地があったんです。コーマ糸という毛足の長い綿を使っていて、光沢のある白さで、カスも出にくい。その美しさに一目ぼれしてしまい、この生地で何かつくりたいと思ったのがきっかけです。 佐々木:バゲットはどこからきたんですか? 早崎:出来上がったあと、人からフランスパン入ってそうだよねって言われて(笑)。たしかに、長いものを入れても持ちやすいし、そういう名前にしようかなと。GUNTEも、軍手を活用するアイデアは後からです。一時期知り合いの関係でレザーのグローブを代行販売していました。でも自分が使うことを考えるとレザーのグローブはしないよなあと思ってしまって。トートバッグみたいにもうちょっと気軽に使えるものにしたいと考えて、軍手が思い浮かびました。 佐々木:自分がほしいものからスタートしているのに、ひとりよがりにならずに定番化されていくのがすごいですよね。 早崎:ベースがあって、まったく新しいものではないというのも大きい気がします。素材とか生産技術は過去から存在するものをあえて活用していることが多いです。どこか知っている、という感覚があるから感情移入できる。これとこれをつなげたんだ、と理解したときの脳内がぶわっと広がる感覚。ただかっこいい、かわいいではなく、ものができた背景も含めて愛情がわきます。 佐々木:なるほど。だからこそ、みんなが使う日常の道具になっていくんですね。自分がほしいものからスタートしたとしても、過去のものをアップデートしているから、その人の存在を感じすぎない。 早崎:あとは、そんなに売ろうという気がないのもいいのかもしれないです(笑)。こういうものがあったらいいのに、という至って純粋な動機からスタートしています。もちろん売れなくて消えていったものもたくさんありますけどね。

“制約があるから面白い” 佐々木:トートバッグもGUNTEも、毎年色や素材、形を変えてラインナップを増やされていますが、そういった展開はどう考えていますか? 早崎:GUNTEの場合、軍手の機械でつくれるものという縛りがあります。一般的な手袋の機械でつくるなら、もっといろんな糸が使えますが、それだと面白くない。今回のようにカシミアを試してみたり、マフラーをつくってみたり、制約がある中でどういったものを生み出せるかというチャレンジが好きです。逆に制約がないと、自由すぎて何をつくったらいいかわからなくなりそうです。 佐々木:制約がマニアックで面白いです(笑)。展開としては、コラボをたくさんされているのも特徴的な気がします。コラボ先はどうやって決めているんですか? 早崎:こちらから声をかけるときも、かけられるときも両方あります。ただ断ることはあんまりないです。無理難題のような依頼があっても、これは自分に与えられた課題だと燃えます(笑)。どうしても自分たちだけでやっていると、例えば工場が嫌がるのを押し通してまでやるのは躊躇してしまう。それが自分の持つ幅なんです。しかし別注となると、工場に対しても大義名分が立つし、なんとかできる方向にがんばります。コラボはブランドにとっての学びの機会ですね。 佐々木:今回のGUNTEも、ドットプリントの位置合わせをかなり頑張っていただいたんですよね。 早崎:左右の軍手を一度にプリントしているので、位置合わせが難しいんです。しかも端ギリギリまで攻めたデザインになっているので、少しズレると目立ってしまう。今回のトライで工場の持つ技術を再確認できました。

“ものをつくり、ブランドをつくる” 佐々木:先ほどファッションとプロダクトの中間というお話がありましたが、TEMBEAとしてファッションはどのように捉えていますか? 早崎:目指しているのは、毎シーズン流行りを追いかけるようなものではなく、定番としてずっと存在するようなあり方です。例えばL.L.Beanのトートとか、コンバースのオールスターみたいな。あとはマーカーのマッキー!ああいう存在になりたいです。かっこいいから買うのではなく、ただ買う、なんの迷いもなく。そういうものに憧れます。 佐々木:マッキーは意外でした(笑)。オールスターなんかも、ファッションが好きな人も、そうでもない人も、どちらも買う。そこがいいですよね。 早崎:TEMBEAの立ち上げ当初から根底にあるのは、他にないものをつくりたいという気持ちです。今世の中に根付いているブランドを見ても、だいたい過去にそういった存在のものをつくっている。一度は発明に近いようなものをつくれないと世に出ていけない。そこは間違いないと思います。ものづくりをしている人は、少なからずそういう考えを持っていますよね。 佐々木:たしかに他にないもの、ということは常に意識していますが、お話を聞いていて、そのあり方のイメージが明確にあるんだなと感じました。僕の場合、毎回違うあり方をつくっている感覚ですが、TEMBEAさんの場合、目指しているものは明確にあって、どのアイテムも必ずそこに向かっている。 早崎:ものをつくるよりも、ブランドを常につくっている感覚かもしれないです。TEMBEAのブランドをつくっていくことと、この一つの企画をつくる感覚は同じです。 佐々木:今後つくるものが、すべてマッキーを目指していると見えてきそうです(笑)。 早崎:周りからはよく全然ブレないねと言われますが、ブレないようにそう言い聞かせている部分が大きいです。ただ、時にはもがいたりあがいたりすることも必要で、都度軌道修正すればいいかなと思っています。 佐々木:ブレさえも許容するようなブランドの力を感じます。色々なコラボをされていても、だいたいTEMBEAさんだってわかります。 早崎:そこは、この帆布の生地に出会えたことが大きいです。素材に惚れ込んで、20年ものづくりを続けています。ブランディングと言えばそうなのかもしれませんが、結局はこのキャンバスのトートが好き、そのことに尽きます。

With TOT

ものに対する思想やプロセスに共感するブランドとのコラボレーションによるプロダクトライン。知恵と工夫の重ね合い、ものごとについてより深く学び、考えるきっかけとなるような別注品を製作していきます。